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「ねぇ、君は覚えてる? 初めて会った日のこと」
古ぼけた日記帳をめくる。彼女が僕と初めて会った日の思い出が、そのときの彼女の気持ちが、つたない表現で書いてある。
「ねぇ、君は覚えてる? 初めてデートした日のこと」
少し黄ばんだ紙をめくる。彼女が僕と初めてデートした日の思い出が、その日僕とどこへ行って、何をして、彼女がどんな気持ちになったかが、事細かく書いてある。
「ねぇ、君は覚えてる? 僕たちが付き合うことになった日のこと」
付箋のついたページをめくる。そこだけ他よりもずっと短く、『だいすき。』とだけ書いてあった。
「──僕は、何も覚えてない」
思い出の塊が、落ちてゆく水滴で濡れて読めなくなっていく。
青白い顔で眠る彼女の記憶が、失われていく。
「……ごめん」
彼女を覚えていないことすら覚えていないことに、僕はひたすら涙した。
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