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ドアをあけた音で彼女の方が震える。私は彼女に抱きつきたいのを耐えて、包帯を巻いていない手をそっと握った。
彼女の目がゆっくりと私を見つめる。
「遅くなってごめんね、寂しい思いさせてぞめんね 」
私の言葉に彼女の目から出たのは、涙。自殺未遂は、初めてだが怒る気持ちは無かった。
ただ、ただ、生きていてよかった、という安堵感、あとは、あの時電話していればという後悔、この後悔はこの先一生消えない。
「る……い」
彼女の口が私の名前の形を作る。私は首を傾げた。
「るい……」
幼子が母の名前を呼ぶような幼い口調、彼女は両親の愛を知らないから、時折幼児のような口調や行動になることがある。
「どうした? 」
怖がらせないようにゆっくり、言葉を押し出す。矢継ぎ早に質問をしては行けない。
「こ、怖かった」
吐き出された言葉は、恐怖。
「気持ち悪かった」
嫌悪。私は、気分の悪さなのかと勘違いしかけて、医者を呼ぼうとナースコールをおそうとした。彼女はそれを止めようと包帯が巻いてある手で止めようとして痛みに顔を歪める。
慌てて、手を引っ込めて彼女がして欲しいことを聞こうとした。
「汚れちゃった、痛かった、怖かった、誰も助けてくれなかった」
次々と出てくる言葉、彼女は小さく震えていた。私は、彼女を抱きしめた。
「今日、ルイが好きなものを作ろうって思って」
突然、いつもの彼女の声に戻る。私は相槌の代わりに頭を縦に振る。
「知らない男性が私に声掛けてきて、怖くて固まってたら、と、突然手を引かれて、車に連れ込まれて、それで、それで……」
絶句した。
告げられたのは、彼女が何者かに陵辱された事実。
彼女は、彼女は……。
怒りを抑えられず叫びそうになる。殺してやりたい、そんなふうに思った。
「ごめんなさい」
全ての告白が終わって彼女の口から出たのは謝罪。私は、首を横に振る。彼女が謝ることではない。
私は怖がらせないように、手を握る。彼女は恐怖なのか安堵なのか分からないが静かに泣き始めた。
それから、しばらくして女性の医者が入ってきた。
私を見て会釈をして、近くの椅子に腰掛ける。
それから、二、三質問をしてから、彼女に話したいことはないか聞いた。
彼女は怯えたように私を見る。私は、目配せで代わりに話していいか確認した。
彼女は小さく頷き俯く。私は彼女から聞いた惨劇を伝えた。
女医は絶句し言葉を失った。そして、警察に連絡をしてくれたのだ。
来たのは女性の警官が2人。彼女は事情を説明した。1人は真剣に聞いていたが、もう1人は彼女の性別を知ると、一気に軽蔑したような表情に変化した。
「え? 身体は男性で?心は女性? あぁ、今流行りのLGなんとかってやつなの?へぇ、それで襲われたんだ、でも、よかったじゃん」
私も彼女も言葉を失いその女警官を見てしまった。
「だって、女になりたいんでしょ?で、男に襲われたわけじゃん、女に見られたってことでよかったじゃん」
は?
私は、目の前の警察官が本当に警察官なのか確かめたくなるくらいに驚きを禁じ得なかった。もう1人の警官は、失笑していただけ。
「え?」
彼女が一言、そう漏らしても、笑うだけのその警官に私は思わずキレてしまった。
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