花嫁に幸福を

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 少女は胸に手を当てる。ただ、Xも少女と同じくらい驚いているらしく、すぐには言葉を放つことができずにいるようだった。  Xがぼうっとしている間、少女はじろじろと無遠慮にXの姿を眺めて、言う。 「おじさん、変な格好だねえ。でも、狸じゃあなさそうだし」 「狸、になった覚えはないですね」  言いながら、Xは自分の姿を見直す。と言っても、Xの格好はいつもほとんど決まって無地のシャツに少し幅に余裕のあるデザインのズボンといった様子で、今日もそれは変わらない。  少女はしばしそんなXをじっと見つめていたが、突然にっと歯を見せて笑った。 「ま、いいや! ね、せっかくだから、ちょっと付き合ってよ」 「……は?」 「話し相手になって、ってこと!」  そう言って、少女はXの手を取る。Xが呆然としている間に、少女は軽々とした足取りで歩み出しながら掴んだ手を引くのだった。  その手を振りほどくことも、できないわけではなかっただろう。けれど、Xはそうすることはせず、少女に任せることにしたらしい。少女はXを振り返り、つり上がり気味の目を細めて、愉快そうに笑うのだった。
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