花嫁に幸福を

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 そんな空に少女は一体何を思ったのだろう、目を細めてこう言うのだ。 「今日でさよなら、あたしの自由、ってね」  自由。その言葉はXにはどう響いたのだろう。私からXの表情を見ることが叶わない以上、それを判断することはできない。ただ、Xは少しだけ声を低めてこう問いかけた。 「結婚が、嫌なんですか?」  少女は「うーん」と言いながら伸ばしていた腕を下ろす。それから、Xの方に目を向けて軽く肩を竦めてみせるのだ。 「相手が嫌ってわけじゃあないよ。昔っから知ってる相手だしね。悪いことにはならない、とは思ってる」  それでも、と。少女は続けるのだ。 「今もまだ想像できないんだよね。ここを離れて、誰かの元に嫁いでいくって感覚が。ずうっと、あたしはここにいて、好きに生きてきたからさ。でも、結婚したらそうはいかない」  果たして彼女の言う「結婚」が私の想像するそれと全く同じかどうかはわからない。結婚という言葉が持つ重みは、こちら側の現実としても、時代や人によって大きく変わるものであるから。そして、最低限、彼女にとって結婚とはそれなりの重みを持っているものであることは、想像できた。 「だから、最後の時間くらいはわたしの好きにさせてくれ、って思ってさ。こうやって、知らないおじさんとお喋りに興じているわけ」
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