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ある日、少年は青年になって帰ってきた。
時計台は以前と変わりないが、あまりに静かだ。青年の足音や息遣いはもちろん、心音までもが聞こえてきそうなほどに。
「お待たせ。ようやく見つけたよ、君に合う素敵な左足を」
青年は興奮していた。
ロボットの左足を接合することにばかり意識が向いていて、時計台の異様な静けさは気にかからないようだ。
「よし、できた。やっぱり、ぴったりだ。完璧だよ。さあ、立ち上がって見せて?」
青年は期待に満ちた眼差しを向けた。
しかし、ロボットは動かない。
「どうして……?」
◇ ◇ ◇
月日が経ち、青年は老人になった。
ロボットは変わらず時計台にいて、革の剥がれたソファへ横たわっている。
やけに綺麗な左足が、座面からズレ落ち、コツンと床を叩いた。
――それは、ロボット自身ですら知らない音。
果たして、あの音を聞いた者は世界にどれ程いるのだろうか。
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