腸内力士

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それから15日間、アイカの腸内力士ライフは快適そのものだった。 朝起きると必ず腸内力士に話しかけた。 「ゴリ丸、今日も頑張ろうね」 3日目くらいからは 「最近、このドラマが面白いんだよ」 「聞いてよ、課長が超むかつくの!」 など色々な事を話しかけるようになった。 1週間を過ぎた頃、それが日常になった。 帰りの電車で、つり革につかまって、おなかをさすりながら 「今日は一日頑張ったからケーキ食べる?」 と聞いたところで向かいに座っていたサラリーマンに席を譲られた。 (え?なんで?親切な人だな・・・) そんな事を思いながら座ってからアイカは気がついた。 (あ、初期の妊婦かと思われたのか!) アイカは心の中で (すみません、ただの元ベンパーです!) と謝った。 そして15日目の朝。 「はっけよい!」 (・・・あれ? いつもの力を感じない。) 壁に掛けたカレンダーをみてハッとした。 (そうか、もうゴリ丸いないんだ・・・) そう思ったと同時に涙が溢れた。 (ずっと、ずっと一緒だったのに・・・) 泣きはらした顔で出社するとユキは(分かるよ)といった風に肩を抱いた。 「最初は寂しいんだよ、腸内力士ロス。」 その言葉でアイカは再びワッと泣き出した。 「もう、早く消化器内科行きたい・・・。」 こんな様子を見て、いつもはムカつく課長が近づいてきた。 そして優しく声を掛けてくれた。 「もしかして、初めての腸内力士ロス?」 「え?もしかして課長も・・・」 「実は私もベンパーだったの。私は大関。」 「課長、強いんですね・・・!」 アイカとユキは初めて課長を尊敬のまなざしで見つめた。 「初めて腸内力士を失った時のロス感はよく分かるわ。 今日はもういいから、もう消化器内科に行きなさい。」 「課長・・・!ありがとうございます!」 私はダッシュで前回行った消化器内科へ向かった。 翌日、アイカは課長に菓子折を渡して感謝の言葉を伝えた。 「課長、おかげで私の便秘もロスも解消されました!」 「そんな、いいのよ。気持ちはよく分かるもの。」 「ちなみに、課長の腸内力士のしこ名は何ですか?」 「私の腸内力士は『美重流出(ミエルダ)』スペイン語で便を意味するわ。」 それを聞いてアイカもユキも思わず「オッシャレー」と感心して3人で笑い合った。 それから数年が経ち『腸内力士』はかなり普及してきた。 時々公衆トイレから「はっけよい!」と聞こえる事も増えた。 それにより「実際の相撲もどうなっているだろう?」と気になって見始めた女性が増加。 それが最近「相撲好きの女子」いわゆる「スー女」が増えた理由であった。 ドスコイ!<完>
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