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「それでも、嫁に来い?」
「中学生のときに決めたんだ」
すかさず微笑み返す。
「中学生のときに……」
持岡奈保が目を瞬いた。
「俺、背が低いから、でっかい女性と結婚しよう。高校生になったら絶対もっと背が伸びる。そしたらダメもとで、おまえに交際を申し込もう。そのときおまえが他の人と付き合っていたら、大人になってから再チャレンジするだけだ。……俺は壮大な構想を練っていた」
そんな夢見る中学生男子だった。
思い返すとちょっとイタい男子だ。
「引っ越し先がわからなくて、名前をネット検索してもヒットしなかった。三十歳過ぎて、そろそろ初志貫徹を断念しようとしていたんだが」
横顔の雰囲気が似通っている女性カメラマンが浜辺にいた。もしかしてと近づいた。名刺を見た。苗字は違うが名前が一致した。
事件を思い出した。引っ越したのち、父母は離婚したと聞いた。
母の苗字になったか。
結婚して変わったか。
俺は持岡奈保にカマを賭けた。
「嫁に来い!」と。
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