Für Kinder(執筆:livreさん)

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Für Kinder(執筆:livreさん)

 クマがビーバーに再会した時、川は穏やかで空は綺麗に晴れていました。あの日とはまるで違う景色です。 「クマさん。お久しぶりですね。」  いつか見た晴れやかな笑顔の挨拶を、クマは返すことが出来ませんでした。代わりに、 「すまない。」  と謝りました。ビーバーはキョトンとした顔をしていましたが、クマはずっとビーバーに謝りたかったのです。 「本来ならお前が受け取るべきものを横から掠め取ってしまった。コノハズク様は『身を挺して命を救った』と言ってくださった。けれどそれはお前に向けられるべき言葉だ。その行いをしたのはお前なのに、コノハズク様はそれを知りもしておられなかった。しかし私も、何も言えなかった。何も言わず立ち去ってしまった。だから、すまない。」  少しの間、項垂れるクマとそれを見つめるビーバーに静かな時間が訪れました。聞こえてくるのは川がせせらぐ音と、遠くで歌う鳥の声だけでした。  数分ののち、ビーバーはゆっくりと言います。 「……クマさん。顔を上げてください。」 「クマさんが謝る理由などどこにもありません。もちろん、コノハズク様にもです。 コノハズク様が私のことをご存知でないのは当然のこと。それを責めるつもりなど、この毛の先ほどもありませんよ。」  ビーバーは自分の濡れた毛皮を指して言いました。 「それに、クマさんは何も間違っておりません。あなたが身を挺して私を助けてくださったことは事実。家に入れてくれ、温めてくださいました。それに……」  ビーバーは一度言葉を切って、クマの様子を窺ってみました。  顔を上げたその目が光って見えましたが、川の煌めきが反射しただけかどうかはわかりませんでした。 「それに、私のお墓を作ってくださったではありませんか。こんなに有難いことがあるでしょうか。お墓を作り、供物をし、弔ってくださった。私は知っていますよ。クマさんが墓守をしてくださっていることも、冬に備えて、木を組んで囲いを作ってくださったことも。」 「見ていたのか?」 「この身体も便利なものです。コノハズク様はこんなお気持ちなのかもしれませんね。」  ビーバーはクスクスと笑いました。確かにクマは冬眠に入る前、ビーバーの墓が雪に埋もれてしまわないようにと慣れない細工で囲いを作っておいたのでした。 「春になったら、また何か供え物をしよう。」  クマが言うと、ビーバーは「それは有難い!」と大喜びしました。  長い長い冬眠の時間はゆっくりと流れます。夢の中でもビーバーはあくせく動き回り、クマはそれを静かに見つめていました。 「休憩をしたらどうだ」という言葉に倣って、ビーバーもクマの隣に腰を下ろした時です。 「しかし、やっぱりお前にも褒美がなくては不公平だと思うのだが。」  クマがビーバーを見て言いました。対してビーバーは「実はもう頂いているのです。」と答えたではありませんか。  クマは驚いて、 「何か貰ったのか?」と問い掛けました。  するとビーバーは答えます。 「クマさんが私に会えるようにと願ってくださったおかげで、私はまたここで貴方に会えました。長い時間を一緒に過ごすことができます。大切な友と再び会える、これ以上ないご褒美です。」  そう言ったビーバーの笑顔があまりに眩しくて、クマは笑いながら目を細めました。
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