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第1話 小さな依頼人
1
僕が今井探偵事務所に来てから三度目の夏が来た。
この春から、僕は探偵事務所の事務員から、事務員兼探偵補佐になった。
とはいえ、僕自身の探偵としてのスキルが上がっているという実感はない。
探偵の依頼はこのところ少しずつ増えてきたが、僕一人で請け負えるような案件はなかなかやってこない。
たいていは千鶴さんが一人であっさり解決するか、助手として僕が少しだけ活躍する程度のもので、この事務所における僕の貢献度は未だに低いままである。
だから僕は、今日も事務員として事務所内の掃除をしたり、経理の仕事をしたりしている。
要するに、忙しくない。
そんな僕に対して千鶴さんはというと、先の小説新人賞の審査員を務めたこともあってか、執筆業が割合忙しくなっているようで、今もパソコンに向かってなにやら作業をしている。
毎日忙しそうにしている千鶴さんを見ているからこそ、何か少しでも千鶴さんの役に立ちたいと思っている僕なのだが、それがなかなかうまくいかない。
どうにかして千鶴さんの力になりたいという僕の気持ちは、はたして千鶴さんに届いているのだろうか。
そう思いながらぼんやりと千鶴さんを眺める。
どこで何をしていようが、千鶴さんはいつだってかわいい。
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