第1話 小さな依頼人

10/42
前へ
/220ページ
次へ
「じゃあ、用意していいですか?」 「うん。私はのんびり待って、コーヒーを飲むだけでいいんだもんね」  頭と言葉を使わずに楽しむ、という観点では合格のようだ。  今の千鶴さんの落ち着いた笑顔はなかなかのものだった。  というわけで、勝負開始。  千鶴さんをテーブルに残し、僕は炊事場へと向かった。  ゲームの進め方については何も話さなかったから、四種類を出す順番も僕が自由に決めていいことになる。  これはおそらく勝負を左右する重要な判断になるだろう。  ちなみに回答側になったとして、僕はまったく自信がない。  さすがに缶コーヒーは見抜けると思うけど、それ以外はまったく想像がつかない。  違うことはわかっても、どれが正解かを当てるのは難しいと思う。  そして千鶴さんは料理があまり得意ではないし、これまで一緒に食事をした感じでは、それほどグルメ気質でもないと思う。  さて、この勝負の行方やいかに。 「お待たせしました」 「もうすでに勝負は始まってるんだよね」  さっきまでの緩んだ表情から打って変わって、キリっとした表情を見せる千鶴さん。  どちらもかわいくて、甲乙がつけ難い。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加