第1話 小さな依頼人

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 僕がグラスをテーブルに置くと、千鶴さんはまずは液面をじっと眺めた。  さすがにそこで区別はつかないと思うのだけど、探偵モードの千鶴さんなら何かわかるのかもしれない。 「アイスだと香りはちょっと弱くなるね」  そう言ってからひと口、千鶴さんはコーヒーを口に入れた。  ゆっくり味を確かめるようにしてもうひと口。 「うん、おいしい」  利きコーヒーをしていることを考えたら、第一声としてはちょっと違うような気もするけど、嬉しそうな笑顔が見られたから、僕にとっては何の問題もない。 「どうですか? わかるものですか?」  僕が口数を増やせば、千鶴さんに余計な情報を与えてしまいかねない。  不利になるだろうとはわかっているけれど、話しかけずにはいられない。 「うーん、わかんないね。いつものって言われればそんな気もするし、なんとなく違う気もする」  なるほど。  ちなみにこれはいつものコーヒーではなく、ドリップ式のコーヒーだ。  僕も試しに飲んでみたけれど、僕も同じ感想だ。  今回用意したドリップ式のコーヒーは、普段のインスタントと同じメーカーのものなので、それほど大きな違いはないようにも思える。
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