第1話 小さな依頼人

2/42

32人が本棚に入れています
本棚に追加
/220ページ
(れん)くん、今は何をしてるの?」  僕の視線に気付いたのか、パソコンの操作をしながら千鶴さんが口を開く。  僕にとっての至福の瞬間が訪れた。 「今は、経理の仕事をしてます。といっても、過去に記録したもののチェックですけど」 「そっち系は蓮くんが全部引き受けてくれてるからね、ホントに助かるよ」  昇天してしまいそうなほど嬉しい気持ちになったが、それは僕にはもったいないお言葉です。  これくらいできないと、いよいよ僕がここにいる意味がなくなってしまいます。 「何かすることありますか?」  これは僕が一年を通して最も多くする質問だ。しかし大半は、特にないと言われてしまう。  それでも僕は、めげずにこの質問を続けるのである。 「そうだねぇ。じゃあ、今日はちょっと、重要なお仕事をお願いしようかな」  なんですと!  これは今までにないパターンだ。  ついに僕が、本当の意味で千鶴さんの役に立てるときが来たのか。 「は、はい。僕にできることなら、なんなりと」  予想外の展開に、僕の返答も少しぎこちなくなってしまった。  こんなときにもっとスマートに返事ができるようにしなければ。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加