第1話 小さな依頼人

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「今やってる作業なんだけど、もうちょっと時間がかかりそうなんだ」  そう言った千鶴さんの顔はパソコンの画面を向いていて、手は小気味よくキーボードをたたいている。  なんとなく僕のことは意識の外にあるような感じで寂しい気もするが、僕は特に何も言わずに千鶴さんの言葉の続きを待つ。 「だからまだ休憩には入れないんだけど、とりあえずコーヒーを淹れてほしいっていうのが一つ」  コーヒーを淹れることは僕の立派な仕事ではあるが、これもさっき千鶴さんが言った重要なお仕事に含まれているのかと思うと、さすがの僕もガクッときた。 「もう一つがね、こっちがたぶん難しいと思うんだけど」  僕が何も言わなければ、千鶴さんは自分の話を続ける。  これは僕たちの間合いとしてしっかり定着しているので、ここでも僕は無言で続きを待つ。 「このあとの休憩でするゲームを考えてほしいの」  休憩の話になったところで、なんとなくゆるいお仕事が課されるような気はしていたが、まさかそう来るとは。
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