第1話 小さな依頼人

6/42
前へ
/220ページ
次へ
「最近さ、作家のお仕事で頭を使うことが多いんだ。だから、なるべく頭と言葉を使わないゲームがしたい」  千鶴さんにとって探偵業は、たいした頭脳労働ではないらしいことにもいちいち驚かない。  そしてこんなことを、ちょっと困ったような笑顔で言うものだから、僕がこの仕事を放棄することはもうできない。  今の表情もとてもよかったけれど、どうにかしていつもの笑顔を取り戻さなくては。  やはりこれは、僕にとってではなく、今井探偵事務所にとって非常に重要なお仕事だ。 「わ、わかりました。がんばって考えます」 「うん。楽しみにしてるよ」 「とりあえずコーヒーを用意しますが、ホットとアイス、どちらにしましょう?」 「んー、アイスでお願い」  楽しみにしてると言ってくれたときの明るい表情も、アイスと決める前に目線を上にして考える表情も、それはもうかわいくて、僕は気合を入れて炊事場へと向かうのだった。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加