75人が本棚に入れています
本棚に追加
いつものように朝日さんが言い出す。こういう切り分けたりする作業も率先してやってくれるせいで慣れてしまった。
おかげで私はこういう時に何もしないくせがついてしまっている。朝日さんは『いつも手の混んだ料理を作ってくれるから』と言ってくれるけれど、第三者がいる場で何もしないのはどうかと思う。
圭人に視線を向けると目があう。こちらの内面を探るような視線と共に質問される。
「いつもそうなん?」
「いつも、って?」
「朝日さん、なんでもかんでもやってくれんじゃん」
「よく助けてくれるよ」
「そっかそっか」
からかうわけでも和んでいるわけでもない、違和感のある笑み。私が取り分けたほうが良かったんだろうか。でも圭人はそういうのを喜ぶような人ではないし、何が正解だったんだろう。
それからピザからデザートまで食べて、先に言ったとおり圭人が支払いをして、店を出る。
夜とはいえまだ早い。これから飲みに行くらしき人達とすれ違う。
「タクシー今呼ぶから、美夜、乗って帰れよ」
「タクシーまで? そんな、そこまで気を使わなくていいのに」
「女一人を夜道に歩かせられねえよ。俺らの安心のためにも乗って帰れ」
こんなに気を使うような人だっけ、と思う。しかし言葉がおかしい。『女一人』に『俺らの安心』。まるで私が一人暮らしをしているかのような。私だけを帰そうとしている。
それっておかしい。私達が結婚しているということ、今日でよくわかったはずなのに。
もしかして朝日さんと圭人だけで飲みに行く約束があったのか、視線を朝日さんに向ければ、朝日さんは私以上に意味がわかっていない様子だった。
「お前ら、本当は結婚してないだろ」
わかっていないはずの圭人が言った。
呆然とする私を、背後から来る人とぶつからないよう圭人は店側に寄せる。圭人は恐ろしいほどに冷静に私達をわかっていた。
「だから美夜は家へ帰れ。で、朝日さんは一緒に帰るな。結婚してないんだから」
「どうして」
どうして私達の偽装結婚を見破られたのか。困惑しながらも聞いてみれば圭人は困ったように笑う。
「子供の頃とはいえ、演技に関わってきたんだ。見りゃわかる」
そうだった。この間の玲奈ちゃんだって怪しまれなかったものの一部には気付いていた。彼女は子役だから、その理屈なら元子役だった圭人も気付くし、彼は大人で子役ではわからないような色恋の部分まで理解していてもおかしくはない。
最初のコメントを投稿しよう!