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回想。
そもそも私達がなぜ偽装結婚したかというと、お互いに困っていたからだ。私はストーカー被害から。朝日さんは週刊誌に撮られてしまったから。
今や声優だって週刊誌記者に張り付かれる時代だ。そんな中、朝日さんは十七歳女性声優と居酒屋を出てきたところを撮られたらしい。それもかなり仲良さげな様子のところを。
これはかなりまずいことだ。十八歳未満と成人が恋愛してはいけないし、例え飲酒していなくても居酒屋から出てきたところというのはまずい。
並んでいるだけで交際はしていない、居酒屋から出てきただけで飲酒はしていない、なんてこちらがいくら言った所で邪推するものは多い。
それにその十七歳の女性声優というのは、うちの事務所の期待の新人、真柴ましろさんだ。とても可愛らしい容姿をしていてアイドル的な人気がある。当然男性ファンも多い。
そんな女性声優と噂になった男性声優は嫉妬から悲惨な目に合うものだ。普通にアンチを量産し、そんな素行の悪い人物ならと仕事もなくなってしまう。それにせっかくついた女性ファンが離れていく。
朝日さんもそうなるかもしれなかった。しかしそれをどうにかする方法がある。
彼はうちの事務所の応接間にて青い顔してやってきた。いつも姿勢のいい身体はよろよろとしているし、表情も世界の終わりを見てきたようだった。
うちの事務所はそんな彼を救おうとして、というよりは利用しようとして、とっておきの策を彼に預けようとしていた。
「大変だったねぇ、高月君。今日はよく来てくれたね」
うちの事務所の社長はにこやかに朝日さんに語りかける。弊事務所は子役など有名タレントが多数所属していて、週刊誌などにも強い。だからこういうときの対処法はよく知っていた。
週刊誌に例の写真はまだ出ていない。今は許可を取るという段階だ。そうなる前にこちらも動けばいい。
「あの、どうして藤宮さんがここに?」
応接室に現れた私に、当然ながら朝日さんは疑問を持った。この時の私達は初対面ではない。アニメで何度か共演したことがあったし、恋人役だって演じた事がある。
しかしこれからの話を私の口からは説明する事はできず、会釈しただけでソファに座っておく。
「高月くん。もしよければ、うちの藤宮美夜と結婚をして、それで真柴ましろとの写真をなかったことにしてもらえるよ」
「結婚!?」
声優らしいよく通る声で朝日さんは聞き返した。
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