先輩声優と偽装結婚します!

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「……それは、偽装結婚を長引かせたくて昨日の投稿をしたということですか?」 「多分。熱あってはっきりは覚えていないけど、そこまで頭は回っていたかと」 「それはわざと?」 「頭の中ではあった。こうして実行してしまったのなら、悪意あってやったとも言えなくはない……」 なんと言えばいいのだろう。別に嫌な訳ではない。偽装結婚期間をわざと引き伸ばしたいという思いは嫌いな相手のすることなら嫌だけど、朝日さんのしたことだから。私も偽装結婚期間、伸びても問題がまったくない気がしているから。 でも朝日さんは自己嫌悪している。きっと彼はファンだから、ファンの域を超えた自分勝手な振る舞いを罰してほしいのだろう。ファンの心理はファンにしかわからない、と私は最近よくわかった。 「それ、七瀬さんに伝えたらどのくらい怒ると思います?」 「『歯ぁ食いしばれ』と言われると思う」 「激怒じゃないですか。じゃあ七瀬さんに叱られてください。私はそういう事を自分で言っちゃう朝日さんなので怒ってはいないです。それにあの実況のおかげで物事がうまく転がっていますし」 ファンのことはファンにジャッジしてもらうしかない。私はというと、全然気にしないし今のところ朝日さんにかなりの好意を持っていってしまっている。 我ながらチョロすぎる。ストーカーを始めとしたろくな異性を見ていないからだし、風邪を引いてでも私に劣情を抱かないようにするこの人に安心しているからだと思う。 だから冷静にならなくては。どうせ朝日さんはファンの鑑なので、私に好意を向けられても困るだけだ。 「うどん、伸びちゃいますよ。いい加減食べないと」 「あ、うん。いただきます」 二人して手を合わせ、くたくたのうどんを食べる。 忙しくても朝だけは一緒に食べる。それが私達偽装夫婦の約束だ。 もう後はイメージのためだけの偽装だけど続ける。朝日さんは思っていたより先輩ではなかったけど、学ぶべき所のある尊敬できる人だ。 あとは私が彼に恋愛感情を向けないように気をつけなければ。これは偽装結婚なんだから。 
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