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「は、はじめまして。今日は誘ってくれてありがとう。圭人君も敬語はいいよ。芸歴じゃ勝てないし」
「あぁそう? じゃあ朝日さんで。店もう予約の時間だから行こうぜ」
またも朝日さんは面食らっていた。変わり身が早すぎる。でもこれだけはなれてもらうしかない。
朝日さんと圭人は自己紹介として色々と探りながら会話して店についた。小さいけれど落ち着いた店だ。
「適当に頼むな。朝日さん、食べれないものある?」
「とくにないよ」
「美夜は魚介食えなかったっけ?」
「それはもう克服したから」
アサリがニョロっと出てくるのを見てから貝が苦手、という話をいつまで覚えているんだろう。子役って記憶力がえげつないものだけど、圭人は今でもなんでも覚えている。ピザを頼むことになって、朝日さんはくすっと笑った。
「ふふ、実はつい最近もピザを食べたんだよね」
「マジか。わり、被った?」
「ちょっと前だから大丈夫だよ。宅配の生地が分厚い、アメリカっぽいやつだったし」
「ああ、ここのはうすいイタリアっぽいやつだからな。ピザ食べたのって美夜と?」
「美夜さんとお互いの友達二人と。俺の友達の七瀬ってやつと、美夜さんの友達の花蓮さんね」
「ああ、花蓮ね。子役の頃なら知ってる。七瀬匠さんも。『高月と七瀬』の動画見てっから」
「ほんと? 嬉しいなぁ」
朝日さんと圭人の会話がポンポン弾む。天才肌の圭人と会話が盛り上げられる自信がないと言っていた朝日さんが嘘みたいだ。圭人もかなり気を使っているらしい。
朝日さんに会いたいと聞いたときには圭人が悪態をつくのではないかと思ったけど、やはり彼も大人。当たり前の礼儀はあるし、オタク嫌いを克服しようとしているのだろう。
雑談をしているうちにピザが焼けた。お店の中に窯があるらしく、細かな焦げのついた薄い生地の上でチーズがとろけている。
「あ、俺が切り分けるよ」
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