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「まあ、朝日さんはちゃんと美夜の事が好きなんだろうな。でも美夜はそうでもない。受け身がすぎる。ストーカーから助けてくれて、便利だから一緒にいる感じが丸出し。それで夫婦だなんてよく言えるな」
バレるきっかけになったのは私の演技だった。いや、心持ちと言ってもいいのかもしれない。
私は何もしていなくて、そこを圭人に悟られたのだ。多分、ピザを切り分ける時がきっかけだった。
朝日さんは慌てて弁解する。
「そ、そんなことないよ。美夜さんはよくしてくれる。朝食だって作ってくれるし」
「食事なんて、美夜は一人でも作って食べるよ。掃除洗濯や雑事も当たり前にする。自分のことなんだから」
「たとえ何もしなくたって、好きならそれでいいと思う!」
「俺もそう思うよ。夫婦なんてそれぞれで、好きだからって絶対に何かしろとは思わない。でも美夜は好きでもない、受け身のままで朝日さんといる」
圭人の言葉は私の心を読み取ったかのようだった。
私は朝日さんのことを好きなつもりだった。助けてもらって、彼の性格などを知って、圭人の事を後ろめたく思ったりして、これが恋愛だと思っていた。
でも違う。これは圭人の時と同じだ。『付き合って』と言われ嫌ではなかったから付き合って、でも遠距離になったら相手を追いかけるつもりはない。そんな子供の恋愛。
そんな恋愛感情を向けられた圭人だから、私が同じことを繰り返していることに気付いたのだろう。
私がうろたえているうちに圭人は朝日さんに向けて話をする。
「俺はさ、オタクも嫌いなんだよ」
「……それは美夜さんから聞いたよ」
「そっか。文句あるならお仲間に伝えて皆で差別だなんだと叩けばいい。こっちは弁護士雇って応戦すっから。俺はオタクのそういう、好きなら何してもいいと思ってる所が嫌いだ」
その言葉で私も朝日さんも、圭人がどれだけオタクに嫌な思いをさせられたかがわかったし、言われても仕方ないと思った。
私だって『好きなら何してもいいと思っている』人が嫌いだ。私に卑猥な言葉などを投げかけておいて、文句を言えば『好きだから言ってるんだから許せ』と言われる。そんな事ばかりだ。
朝日さんもそういうオタクを嫌悪していて、仲間だと思われたくはない。
きっと圭人のこの発言だって公の場でしたら炎上するだろう。オタクである彼らは悪事を働いているつもりはなく『ただ好きなもののために戦っているだけ』なのだから。
「好きなら何してもいいと思ってるオタクと受け身な美夜との組み合わせなんて最悪だ。今は朝日さんも甲斐甲斐しく世話を焼いているつもりだろうが、そのうち好きだから躾だからって暴力を振るいだしたりするかもしれねー。そしたら受け身な美夜は逃げられないだろ」
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