5人が本棚に入れています
本棚に追加
少年は僕の選んだドーナツを白いお皿に乗せ、茶色いトレーに置いて渡してくれた。隣にはコーヒーもあった。
少年は笑顔で呟いた。おそらく「サービス」と言ったのだと思う。
最後に白いカードを僕に手渡した。
彼が書いたカード。
なんて書いてあるんだろう?
『君はいい友達だよ』とか『いつか機会があればまた会えるといいね』とかかもしれないし。あるいは『何故カードに何も書かなかったの?』かもしれない。
僕は窓際の席に座って恐る恐る封をあけた。
『愛してる』
手紙マニアらしいキレイな字で、ただそれだけ書いてあった。
窓の向こうにはいつの間にか雨が降り出していた。ガラスにぶつかって流れていく様はまるで誰かが泣いているみたいだった。
ガラスに映った僕も多分泣いていた。
シャイな彼がたった一言、まっすぐな気持ちを僕にくれたのにどうして僕にはその勇気がなかったんだろう。
俯きがちに笑う低い声。
ご機嫌な時の子供みたいな姿。
コーヒーの少し苦い味。
ふわふわのシュガーレイズドの周りについた、甘くて優しい砂糖。
彼の姿は世界の果てでも見つからなくて、僕の後悔は世界の果てにきても消えなかった。
どちらの想いも行方不明になってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!