世界の果てのミスタードーナツ

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彼は水曜日には絶対にミスタードーナツに現れなかった。 何か用事があるのだろう。 火曜日は現れても、早めに店を後にした。 その内になんとなくわかった。 彼は『誰か』と過ごす用事があるのだろう。 それでも僕はなんとなく水曜日にミスタードーナツを覗き込んだ。 窓際の席にやっぱり彼はいなかった。 ある日僕はこう言った。 「たまにはスターバックスに行こうよ」 「そうだね」 僕たちはソファ席でゆっくり過ごした。 僕はその時間が気に入ったので、その後もスターバックスに誘う様になった。 「今日もスターバックスに行こうよ」 「そうだね」 そういったやりとりが何度か続いた。 「今日もスターバックスに行こう」 彼は目を合わせずに少し困った顔をした。 「ちょっと節約したいんだ」 それからまた僕たちはミスタードーナツの揺るぎない常連になった。 残業で退勤が真夜中になったその夜、なんとなくミスタードーナツの前を通った。もちろんお店は閉まっている。 その時コツコツとガラスをたたく音がした。 振り返ると向かいのビルのショーウインドーの中に彼がいた。どうやらショーウィンドウの飾り付けをする仕事をしていたようだ。
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