世界の果てのミスタードーナツ

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世界の果てのミスタードーナツ

世界の果てのミスタードーナツ 「世界の果てにもミスタードーナツはあるらしいよ」 低い声で彼はそう言った。 「世界の果てってどこ?」 「どこだろ?」 彼と知り合ったのは、偶然としか言いようのない偶然だった。 いつも仕事の休憩時間にはスターバックスに行く。ある日、なんとなくミスタードーナツに行ってみたくなった。 そしたら彼がいたのだ。 「すいません混んでるので、相席でも大丈夫ですか?」 店員さんにそう言われて窓際の席に案内された時、最初は断ろうと思った。だけどあいにく雨が本降りだった。雨宿りしたかった。 「僕は大丈夫ですよ」 先に席に座っていた彼は低い声で言った。思ったよりずっとずっと優しい声だった。 それからはスターバックスよりミスタードーナツに行くことが多くなった。 彼は大抵文庫本を読んでいた。あとは手紙を書いていた。 「誰に書いてるんですか?」そう聞くと 「おばあちゃんです」 「同級生です」 「いとこです」 「はとこです」 「友達の弟です」 様々な答えが返ってきた。 「手紙マニアなんです」 彼はそう言って俯きがちに笑った。笑う時に目を合わせないのは癖なんだと、その後すぐに知った。
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