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「「……」」
すんでのところで大惨事は免れたが、問題はここからだ。
(めっちゃ、顔近い近いっ!!)
この距離感だと、上から覆い被さる形になっている黄流が、これ以上腹筋に力を込めると反動で身体が落ち、大惨事を免れない。
「下がれ」
微かな声だったが、息が唇を掠めた気がした。
(ひぃっ、今は何もなかったっ!! ないったらないっ!!)
わずかな間を置いて俺は記憶を頼りに、ゆっくりと足を下ろした。
(確かこの下に次の段があったはず)
空間認知能力には自信がある。
(クレーンゲームだって外したことないし)
だが、その足は何も踏まなかった。
「うわっ!!」
「危ないっ!!」
黄流が腕を伸ばし、ほとんど黄流に抱きつく形で落下を免れる。
(うわ、俺みっともない)
「すみません。しかし凄い筋力ですね」
何とか体勢を戻して言うと、
「まあ、俺にかかればこんなものさ」
(大惨事にならなくてよかったあ)
そう思ったものの、どこか自慢気に言われるのは少しばかり面白くない。
俺は早足で階段を降りながら、
「しかし、黄流さんが筋肉オバケで助かりました」
「なっ!! それで助かったんじゃないかっ!! 大体『筋肉オバケ』って俺はそこまでマッチョでは」
「じゃあ、腹筋オバケで」
「いい加減オバケから離れないかなっ!?」
賑やかに階段を降りて行く俺達は知らなかった。
その後、報告書を読んだ藤峰さんが『マネキンですか? そういったものは全て処分したと聞いてましたが』と首を捻り、黄流が『はっはっはっ!! 海藤助手は夢でも見たんじゃないかなっ!?』と俺にとんでもない圧を掛けてくることなど。
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