デパートの怪異

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簡単な依頼のはずだった。 『T市駅前の、かつて山中デパートだった建物内に夜、侵入する輩がいるらしいので調べて貰えないでしょうか』 山中デパートは創業115年の老舗デパートだったが、この不況で耐震補強工事の予算を組めない、ということから2年程前に廃業が決まり、現在は無人のビルのはずだった。 年号二つ前まで(さかのぼ)れば、他にもデパートの一つや二つあったのだが、山中デパートの廃業が決まって以降、T市駅前のデパートはゼロとなってしまった。 (山中デパートか) 子供のころ、親に連れられて俺もよく行ったものだったが。 闇夜に浮かぶ六階建てのその姿には、かつて華やかだったころの名残などなく、 「廃墟かあ」 (取り壊し、来月だったか) よく2年も放っておいたもんだ、と逆に感心していると、肩を叩かれた。 「そういうのはいいから、さっさと片付けるよ」 俺とは正反対に明るい茶色の髪をした青年が通用口の扉を開けた。 テキパキと鍵を開ける動作も無駄がなく、着やせして見えるが、それなりに鍛えていると分かる。 「はい。所長」 (顔もよくて運動神経もいい、って嫌味だよなあ)
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