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『人生って、舞台と似ているよね』
そう言って、樹里はラムネを一口飲んだ。
何の話をしていて、そんな言葉がでてきたか覚えていないけれど、その言葉だけははっきりと胸に残って離れなかった。
旗揚げ公演の打ち上げのあとの蒸し暑い夜、ブランコに腰掛けながら、樹里はそう言った。
言葉の意味はわからなかったけど、わたしの口は『たしかに』と小さく動いた。
その言葉が樹里に届いたかは、わからない。
だけど、そうしないと夜の静寂に吸い込まれて、消えてしまいそうだった。
さっきまでキンキンに冷えていたはずのラムネの瓶は、もうすっかりぬるくなってしまっている。体温をおびて、あたたかくなったラムネの瓶はなかなか手になじまなかった。
一口のラムネが、口の中に甘ったるさだけを残して、おなかの中に落ちていく。キィキィとなるブランコを小さく漕ぎながら、月明かりに照らされる樹里を横目でみた。
同性のわたしからみても、樹里は見惚れてしまうほど綺麗だ。
『人生って、舞台と似ているよね』
そしてそんな言葉が出てくる樹里は、きっと、誰よりも舞台に愛されている。
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