桶狭間にて 後編

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――― 「あいつが『物体取り寄せ』の力を使う素振りを見せたら、俺は信長に合図をする。」 握りこぶしを作って今一度気合いを入れた。 義元は今は刀で応戦しているが、いつか絶対に力を使って得意の槍を取り寄せて反撃すると蘭は踏んでいた。 それは信長の父親の信秀との戦いの時、突然槍が現れて驚いたという信長の話からもわかる通り、義元の奥の手だという事なのだろう。地元では「海道一の弓取り」と呼ばれているらしい。 そんな義元を相手に何の対策もないまま戦うのは不安でいっぱいだった蘭はある事を思いついた。 一年以上の間義元の側にいて、しかも『物体取り寄せ』の能力を使うところを何度も見てきたからこそ、力を使う時の義元の癖に気づいていた。 力を使う前、義元は必ず目を瞑って右手を開いたり閉じたりする。それを数回繰り返した後に目を開き、次の瞬間には思い浮かべた物体が手の上や大きい物は中庭に現れるという流れであった。 それを思い出した蘭は自分なら義元の癖を見抜けると確信して、今回この作戦を自ら提案したという事だった。 .
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