桶狭間にて 後編

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――― 「元康……」 「私は家康です。もう貴方の奴隷ではありません。」 「奴隷……?」 「奴隷と同じでしょう。貴方、私に何をしたかわかっていますか?年端もいかない子どもをまるで物のように……領地争いの為にたらい回しにされて、一体どうやってまともに育てと言うんですか?松平の家に生まれたのに私にはもう、帰る家すらありませんでした……」 「…………」 「いっその事このまま死のうと思いました。私一人死んだところで今川の人質がのたれ死んだだけだと思われる。それでも良かった。でも貴方の寝顔を見た時、ふと思ったんですよ。この平和ボケした憐れな老いぼれをいつか自分の手で……ってね。そこからは文字通り死物狂いで松平家の元家臣を集めました。まぁ、結果的には貴方に感謝しなくてはいけませんね。今川義元を抹殺する為に、今まで生きてこられたんですから。」 「き……貴様ぁ~!人質の分際で何を偉そうな事を!」 「ちっ……本性出しやがったな。」 急に真っ赤な顔で怒鳴り出した義元に信長が短く舌打ちをして刀を構える。その後ろで家康も鞘から刀を抜いた。 .
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