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数ヶ月後、私は佐原くん
───颯太───と初めての旅行に来ていた。
「作品の参考にする為・・・っていうのは口実で、一緒に旅行に行きたかったんだ。」
目の前に川が流れる老舗旅館の入口前で彼は恥ずかしそうに頭をかいた。小柄だったのにすっかり背が伸びて長身となっていたし短かった髪も長めのヘアスタイルへと変わっていたけれど、くっきりした二重はあの頃のままだった。
そんな彼の手に自分の手を絡めるとぎゅっと握ってくれた。見上げると照れたように目を逸らされる。
颯太が代表でチェックインすると『佐原様ですね。少々お待ちください。』と言われ、フロントの人が奥に入っていく。何だろう?と思っていると奥から私達と同年代の着物の女性が出てきた。他のスタッフさんは揃いの作務衣を着ているので若女将とかだろうか。
───なんでだろう?私達、100万人目の宿泊客とか・・・?
「日下部さん、佐原くん、久しぶり。」
艶々とした黒髪の彼女は懐かしそうにそう言った。
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