3人が本棚に入れています
本棚に追加
わたしは探している。
違和感の正体の。
最適解を見つけたはずなのに、わたしはどうしてあたなを失くしてしまったのかという矛盾を。
わたしは間違ってしまったのかもしれない。
間違ってしまったから、覚えていないのではなく、忘れようとして忘れたのだとしたら……思い出したくない事実をわたしはなかったことにしようとしているのかもしれない。
だとしたのなら――激しい悪寒がわたしを襲う。
わたしの中でおぞましい記憶が水底から浮き上がろうとしている。
寒い、とても寒い。
暖めなければ、わたしは暖めなければいけない。
凍えてしまいそうなわたし自身を。
わたしは探した。
あなたの温かい言葉、安らぎを与えてくれる温もり、あなたの寝息、心臓の鼓動。
電話がまた邪魔をする。
わたしは家の電話の線を抜き、携帯の電源を切る。
呼び鈴が鳴る。
戸を叩く音が聞こえる。
わたしは音を立てないように、わたしが一番落ち着く場所を探した。
わたしが一番落ち着くところ、それはダイニングキッチン。
あなたは料理が苦手なわたしのために、いろいろと作ってくれた。
お酒を飲んで料理を食べて、楽しい会話をして、一緒に荒いものをして。
でも楽しい時間のあとは寂しい時間が待っている。
あなたの温もりが残った椅子に腰掛けて、わたしは一人寂しくお酒を煽る。
楽しい思い出が詰まった場所、そして悲しみと向かい合った場所――どうしてだろう。でもなんだかここには行きたくないってさっきまで思っていた。
あたしは探してみた。
ダイニングキッチンに行きたくない理由を。
確かめなくては。
わたしは薄暗い寝室から抜け出し、キッチンへと向かう。
足が震えている。
この先に行きたくないと言っている。
ペタペタと素足で床の上を歩いていく。
ペタペタと湿った音がする。
ぬるぬるとした感触がする。
わたしはどうしても足元を見ることができない。
わたしは身を縮めながらキッチンに辿り着いた。
そうだ、そうだった。
大事なものはいつもここにしまっていたのだった。
冷蔵庫。
そうだ冷蔵庫だ。
最初のコメントを投稿しよう!