さがしもの

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 わたしは探している。  暖かいぬくもり。  わたしを癒してくれる、それは光  夏の太陽のようにギラギラしていない。  冬の晴れ渡った空のひだまり。  硬くざらざらしているけれども、肌を通して血液を少しずつ温めてくれる。  暖かな南風ほど湿度を伴わない。  だけどすぐに通り過ぎはせずに、わたしの四肢にまとわりついて心の淀みを洗い流してくれる。  わたしは探している。  失くしてしまったものを。  ついさっきまで、当たり前のようにそこにあったはずなのに。  どこにいってしまったのだろう。  でもそんなはずはないのだと、わたしは知っている。  あなたがわたしを一人ぼっちになんかしない――できないってことを知っている。  あなたはわたしを愛している。  わたしもあなたを愛していた。  喪失感の後の絶望感。  どうしてわたしはあなたを失ってしまったのだろう。  そうしてあなたはわたしを置いてどこかにいってしまったのだろう。  そのどこかがわかれば、すぐにでも迎えに行くのに。  わたしは探している。  あなたが去ってしまったときの記憶を。  思い出せないはずはない。  あなたを忘れることなどできないのだから。  でもどうしても思い出せない。  思い出すことが怖いのか。  思い出せないことが良いことなのか悪いことなのか、それを考えるのも怖い。  わたしがこんなに怖がっているというのに、誰も助けてはくれない。  わかっている。  そもそもわたしにはあなた以外の誰も居ない。  誰もいなくてもあなたが居た。  あなたが居たから誰も要らない。  要らないものは失くしても探さない。  探さないから見つからない。  見つからないからわたしはしかたなく一人で考える。  わたしは何を探しているのかを。  電話が鳴る。  誰かがあなたを探している。  誰かは知らない。  会社の人なのかご家族なのか。  わたしは要らないものを知りたくもない。  知りたくもないものはわかりたくない。  あなたがどこの誰と繋がっていよいと、わたしにはまるで興味がない。  興味がないものは覚えない。  覚えないものは知らない。  知らなければ無いことと同じ。  そう、存在することをわたしは許せない。  わたし以外の誰かとあなたが関わることを、私は許せなかった。  やっとそこまで思い出した。  わたしは許せなかったのだった。  だってあなたはわたしだけのあたなでなければならない。  "あなたがここに居てほしい”とわたしはいつも思っていた。  それは炎のように燃え上がる感情。  日を追うごとに大きく燃え上がり、すべてを焼き尽くそうとした。  わたしは探していた。  炎を消す方法を。  きっとそうだったに違いない。  覚えてはいないが、それはわかる。  だってわたしは "あなたがここに居てほしい"と常に願っていたのだから。  その思いが募るほどに炎は激しく燃え上がり、すべてを焼き尽くしていく。  それが怖くて、悲しくて、それでもとめられなくて、だから探していたのだと思う。  炎を消す最適解を。  そしてわたしはついにそれを見つけたに違いないのだ。  見つけたわたしはどうしたのか。  それを実行したに違いないのだ。  なぜならわたしはずっとその方法を探していたのだから。  この苦痛から逃れるために、ずっと、ずっと探していたのだから。
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