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流と並んで駅までの道を歩く。
「ノアの方から、一緒に帰ろうなんて珍しいよな」
「あ、うん、話したいことがあって」
「翔平と古着屋寄ろうって話してたけど、ノア優先したから。俺っていい彼氏だねー」
ペラペラと喋る流を横目に、私は密かに深呼吸した。
言わなければと思うほど、のどの奥にものがつまっているように息苦しくて、言葉が何も出てこない。
「なぁ」
流が振り返って、私を見下ろす。その目は笑っていなかった。
「ノアって中学のころ、クラスでハブられてたんだって?」
ドクンと心臓がなって、言葉につまる。
「ハブられっていうか……。まぁ、うん」
黒い記憶がどっと押し寄せて来る。
ーあいつ、きもくない? 小説書いてるとかさ
ーだよね、なんか趣味からしてうちらと違うよね。
ーあのノートやばかったよねー。笑えるわ。
ーもうさー、口きくのやめない?
今ここにいない、かつてのクラスメイトたちのつぶやきが、耳元で聞こえる。
「バイト先にノアと同じクラスだったってやつがいてさ、お前の彼女は高校デビューだって、俺、笑われたんだけど?」
私が黙っていると、流が畳みかけて来た。
「誰のおかげで、今のお前があるのかって、そのへん、ちゃんと分かってるよな?」
口がからからに乾いて、声が出なかった。
「なんか最近、楽しそうにしてるよなぁ。調子乗ってるのか知らないけど、そういうのも、俺と付き合ってるからだろ?」
私が今日言おうとしていたこととか、何を考えていたかとか、すべて流はお見通しなのかもしれない。
その上で、流は私をつなぎ止めようとしているのか。
「私のこと、そんなに好き?」
「俺に従順なとこは好き」
流は目を細めて笑った。
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