2,宝石はそこにない

7/12
前へ
/34ページ
次へ
 流と並んで駅までの道を歩く。 「ノアの方から、一緒に帰ろうなんて珍しいよな」 「あ、うん、話したいことがあって」 「翔平と古着屋寄ろうって話してたけど、ノア優先したから。俺っていい彼氏だねー」  ペラペラと喋る流を横目に、私は密かに深呼吸した。  言わなければと思うほど、のどの奥にものがつまっているように息苦しくて、言葉が何も出てこない。 「なぁ」  流が振り返って、私を見下ろす。その目は笑っていなかった。 「ノアって中学のころ、クラスでハブられてたんだって?」  ドクンと心臓がなって、言葉につまる。 「ハブられっていうか……。まぁ、うん」  黒い記憶がどっと押し寄せて来る。 ーあいつ、きもくない? 小説書いてるとかさ ーだよね、なんか趣味からしてうちらと違うよね。 ーあのノートやばかったよねー。笑えるわ。 ーもうさー、口きくのやめない?  今ここにいない、かつてのクラスメイトたちのつぶやきが、耳元で聞こえる。 「バイト先にノアと同じクラスだったってやつがいてさ、お前の彼女は高校デビューだって、俺、笑われたんだけど?」  私が黙っていると、流が畳みかけて来た。 「誰のおかげで、今のお前があるのかって、そのへん、ちゃんと分かってるよな?」  口がからからに乾いて、声が出なかった。 「なんか最近、楽しそうにしてるよなぁ。調子乗ってるのか知らないけど、そういうのも、俺と付き合ってるからだろ?」  私が今日言おうとしていたこととか、何を考えていたかとか、すべて流はお見通しなのかもしれない。  その上で、流は私をつなぎ止めようとしているのか。 「私のこと、そんなに好き?」 「俺に従順なとこは好き」  流は目を細めて笑った。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加