2,宝石はそこにない

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 クラスメイトたちが、カリカリとシャーペンでテストを解く音が響いていた。  結局流とは今まで通りのまま、いつもの日常が繰り返される。  今日の小テストは古文単語だった。約束どおり、このテストも横田くんと点数を競っている。 「はい終わり。隣と交換して、採点して」  教師の一言で教室にざわめきが戻る。 「あー、今回出来なかった」  横田くんは頭をかいた。  なんか可愛いと思いながら、平静を装い答える。 「ふぅん。私は出来たけどね」 「嫌味だなぁ」  採点して返し合ったテストは、やはり私の方が点がよかった。 「ねぇ、罰ゲーム考えたんだけど」 「なに?」 「痛い思い出ってある? それ教えてよ」  私は思い切って聞いた。 「痛い? え? けがとか?」 「じゃなくてさ、痛々しいっていうか、その……。今の自分が振り返ったら見てられないなっていう思い出」 「えぇ、そんなのないしな」 「そっか……」  やっぱり、横田くんは私と違う人間なのだ。いつも真っすぐに生きてきて、目をそむけたくなるような思い出なんて持っていないんだ。 「だから頑張れるんだよね」 「は?」  私がつぶやくと、横田くんはむっとしたような声をあげた。 「もしかして、真北って過去のことで、なにかの言い訳してる?」  鋭いことを言われて、私は一瞬固まった。 「そんなことない」 「あ、一個あったわ」 「え?」 「だから、痛い思い出」  横田くんはそっぽを向きながら答えた。 「今日の放課後、演舞の練習まで時間あるんだ。そのとき話す」 「え」 「話すのが罰ゲームなんだろ?」  思いがけず、放課後の約束までしてしまった。私はうなずきながら、横田くんが採点私てくれた小テストをそっと折り畳んだ。  
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