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ホームルームのあと、横田くんに言われて体育館の横にある、自販機コーナーに移動した。
他のクラスよりホームルームが若干早く終わったからか、周りはまだ人がいない。二人切りになってしまいやけに緊張した。
「ここでなんか飲みながら話そ。負けたからおごるし」
「え、いいの?」
「ついでついで」
横田くんはコーラを買った。私はいちごミルクを買ってもらう。
「そんな甘ったるいのよく飲めるよな」
横田くんは笑った。
「いいじゃん。子どものころから好きなの」
「おこちゃまなんだ」
「コーラだって大人とは言えないと思うけど?」
軽口を言い合ったあと、横田くんがふっと遠くを見つめた。
「痛い思い出ってやつだけど……」
「うん」
どんな話だろう。自分から罰ゲームのことを言い出したことなのに、聞きたいような聞きたくないような変な気持ちだった。
「俺、中学のとき好きな人がいてさ」
ずきっと体のどこかが痛んだ。やっぱり、聞くんじゃなかった。
そんな気持ちとは裏腹に、相槌を打つ。
「部活の先輩だったんだよね。やっぱりダンス部で。二つ上の先輩で、あこがれもあったと思う。でも先輩は同じ部に彼氏がいたんだ」
ドッドッと血が逆流している感じがした。
「その彼氏も俺の先輩で、尊敬してた。だから、盗ろうとかそういうのは全然考えてなかった。だけど……」
横田くんはコーラをぐびっと飲んで苦そうな顔をした。
「好きだったその先輩、俺に告白してきたんだよね」
「え?」
「意味わかんないだろ? 彼氏も好きだけど、横田のことも気になる、好きかも、とか言われて……」
「好きかもだなんて……。そんなの横田くんはなにも言えなくない?」
「うん。で、俺なんにも言えなかった。本当は、好きって気持ちだけでも知ってほしかったけど、そこで俺がそんなこと言ったら、先輩たちの仲がこわれちゃうって思って」
横田くんは、はぁ、とため息をついて空を見上げた。
「なんにも言えなかったんだよな」
「……正しい反応じゃない?」
「だよな」
さみしそうに笑う横田くんを、抱きしめたかった。
でもそれだけはだめだと、自分をいさめる。私がそんなことをしたら、横田くんはきっと、幻滅する。横田くんはそういう人が一番嫌いなんだって、今まさに、分かったんだから。私はあくまでまだ、流の彼女だ。
「ねぇ、その先輩今はどこにいるの?」
「へ? 今はどこにって……今年から大学生」
「どこの大学!?」
「K大学だけど……?」
ここから駅で一駅のところにある私立大学だった。
「行こうよ、そこ」
「は? 何言ってんの」
「先輩に会いに行って、伝えようよ」
「好きってことを? なんで。もう好きでもないし、今さら……」
「今だから言えるんじゃない? あのとき、本当は横田くんだってその人のことを好きで、彼氏もどっちも好きかもなんて言われて傷ついたってこと、自分の気持ちを飲み込んだってことを、今なら言えるんじゃないかな? だってその人自分だけすっきりしてずるいじゃん」
いつの間にか身を乗り出していた。横田くんの肩にあたりそうになって、慌てて元の位置に戻った。
「ぷっ」
横田くんが吹き出した。
「な、なんで笑うの!?」
「いや、こんなに必死な真北はじめて見たなって思って」
くっくと笑いをこらえながら、横田くんは言った。
「いいよ、もう。俺の中では区切りはついているし。あの二人もうまく行ってるし。言うことなし!」
「それじゃ、横田くんの気持ちはどうなるの……?」
「今聞いてもらったからいい」
横田くんは立ち上がって、空になったペットボトルをゴミ箱に捨てた。
「今、真北が聞いてくれたからいいよ。ありがとな」
私の頭をぽんとたたいて、歩いていく。
「え、どこ行くの」
「悪い、もう練習はじまるから」
「あ、そうか」
私はどこかぽかんとして立ち上がれないでいた。
「真北、必死になってる顔も結構いいよ」
横田くんは振り返るとにやりと笑った。
「な、なんでそういうこと……」
残りは言葉にならなかった。そういうこと、言うから好きになっちゃうじゃん。
もう本当にだめだ。苦しかった。
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