2,宝石はそこにない

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 次の日の朝、一緒に登校しようと流を誘った。スマホで「駅で待ってる」とメッセージを送り、学校の最寄り駅で、流を待つ。  電車が到着したようで、一気に人が改札から吐き出されてくる。  その人混みの中で、流は目立った。背が高くて、髪色が派手で、制服も適度に着崩して、周りの女子生徒が思わず振り向く。 「はよーノア」 「おはよう」  流に声をかけられた私に向けられる、羨望と嫉妬が混じった視線。これこそ私が、高校生活を平和に過ごすための、必須アイテムだった。  だけど、もうやめなくちゃ。 「ごめん、流。話しがあるんだけど」 「ん?」 「別れて」  ざわざわした朝の駅で、私はやっとその一言を言った。こんなことを言うのに、ふさわしい時間でも場所でもなかったけど、もうタイミングを計っていられなかった。 「え? 聞こえない」  流はそう言うと、私の手を取って学校の方に歩き始めた。 「ちょ、ちょっと待ってよ!」 「いいから、行くぞ。遅れる」  流は私をひっぱった。 「ねぇ、待ってよ。話し聞いてくれない?」 「は? 俺の言うことが聞けないの? 行くって言ってんだろ!?」  流の大きな声にひるんだとき、「え、ケンカやば」と笑いを含んだ女子の声がした。  はっと振り返ると、うちの学校の制服だった。知らない子。思わずうつむいたとき、「真北?」と声がした。  知らない女子の後ろから出て来たのは、横田くんだった。 「あ」  流はまだ私の手を強くつかんだままだ。何も言えないまま固まっていると、知らない女子が横田くんの腕をつついた。 「先輩、早く行きましょ!」 「おう」  横田くんは女子にシャツの袖をつままれたまま歩いていった。私には何も興味がないように。後輩なのか、女子と笑いあって歩いていく。 「へぇ、横田って地味に見えて結構やんのな、彼女いるんだ」  流がにやにやして言った。 「俺たちも仲良くしないと、な? ノア?」  私は渾身の力をこめて、流の手をふりほどいた。 「ごめん!」  流は冷めた目で私を見ている。 「本当にもう無理なの、一緒に居られない!」 「最低だな? お前」  流に言われて、一番自分がわかってるよ、と答えようとして目に涙がたまった。振る方が泣くなんて絶対だめだって思ってたのに。 「お前、俺を利用してただけだろ? クラスでの地位を守りたかっただけだろ?」  そこまで知られていたんだと、情けなくなる。私は流のことをどれだけ傷つけていたんだろう。 「いいわ、もう」  流はため息をついた。 「お前が最低だってこと、クラス中に広めてやるから。今日からお前、俺の彼女でもなんでもない。それがどういうことか分かるよな?」  流の彼女じゃない私に、クラスで価値なんてない。それどころか、流に最低だってみんなに広められたら、居場所すらなくなる。  覚悟していたはずなのに、また、中学のときみたいな毎日が待っているのかと思うと、足が震え出した。だけど、それでも、もう気持ちにうそをつくことはできなかった。 「分かってる。……たくさんごめんね」  それだけ言うのが精いっぱいだった。流は、大げさなため息をもう一度つくと、人混みに消えていった。  
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