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3,光っている場所は遠いから
それから、確かに加奈は私を一人にすることはなかった。体育でペアを組むとき、教室移動のとき、いつも誘ってくれた。
私はそれに応えたくて、少しずつ加奈に本当の自分を出すよう努めた。
本当の自分って何かよく分からないけど。
そう打ち明けると、加奈は「まじめか!」と笑ってくれた。
確かに私は、変にまじめなのかもしれない。そりゃあ一気に全てはうまくいかない。まだ私は誰にも小説を書いていたことは言えないし、言う必要も今のところ感じない。
言いたいと思ったら言えばいいのだ。それと同じで、まだノートの続きを書くことはできなかったけれど、書きたくなったら書こうと決めていた。
クラスで時折響く流の笑い声にびくびくしてしまったのも数日だった。流と話すこともなくなると、それはだんだん教室のBGMになっていく。流と私はそれくらいの距離感がちょうどいいんだと、あらためて思った。
授業の合間の休憩時間、ホームルームあとのだれた時間、そういうちょっとした隙間時間に加奈が流たちといると、その間私はひとりぼうっとすることが増えた。
だけどそれは自然なこととして受け入れられた。無理についていかなくてもいい。加奈とは一対一で、ゆっくりゆっくり関係を深めていけたらいい。
そして、横田くんとも。
私は流と別れたことを横田くんに言ったり、ましてや告白したい、とはまだ思えなかった。
放課後、私は思う存分横田くんの演舞を眺める。教室の隣にいるときとは違う、真剣そのものの顔。制服に包まれているときには想像できない、力強いのになめらかな動き。
それを見ているだけでよかった。
ずっと体育祭が来なければいいのにと、前より強く思う。この横田くんを、ずっと眺めていたかった。
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