1,たぶん私、だいじょうぶ

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 次の日。教室に入ると、流が私の机にすがって友達と話しているのが目に入った。そのときはじめて、メッセージを返し忘れたことに気が付く。 「ノア、既読無視すんなよ」  流はちょっと不満そうに口をとがらせた。 「ごめんって! 頭痛くて帰ってすぐ寝ちゃってー」  とっさにウソをついた。 「大丈夫なの?」  聞いてきたのは流と話していた加奈。 「うん、もう大丈夫」 「ならよかったけど。な、流?」  流の肩に手を置いて、翔平が言った。流は「ああ」と不機嫌そうにうなずいただけだった。 「流ってば、彼女に優しくない!」 「だよなー、もっと心配してやったら」  流の周りにいる他の子たちがあれこれ話す声が遠くに聞こえる。本当に頭が痛くなってきそうだ。 「今日の放課後、カフェで勉強しない?」 「え? ああ、うん」  問いかけに反射的に答えたあとで、はっとして流の顔を見ると、満足気に笑っていた。面倒くさいな、と思ってしまってすぐに自分を責めた。どうして彼氏と放課後一緒に過ごすことを面倒だなんて思ってしまうんだろう。  彼氏がいるって、もっときらきらしているんだと思っていた。好きな人が自分を好きでいてくれるっていう安心感があって、自分を肯定できるはずだって思っていたのに。  そりゃあ付き合ってすぐは高揚感があったけど、夏休み前に付き合いはじめてやがて季節が変わると、なんだか違うという感覚が強くなってきていた。 「なんだかんだ、ノアたち仲良しなんじゃん!」 「いいなー彼氏彼女で勉強ってーうらやましいー」  周りにはやっぱり、いいカップルだと思われているみたいで、これでいいんだよね? と自分に言い聞かす。  私がこうやって、みんなに囲まれているのは流が彼氏だからだ。  人気者の流と、その彼女の私。  私自身は大したことないのに、流に選ばれたということだけが、私のクラスでの地位を支えていた。  その証拠に、二年生のクラス替えで加奈に連れられ流のグループに入ると、一年のときよりぐっと友達が増えた。  目立つグループで過ごすたび、自分の立ち位置にそわそわしていたのも、流と付き合いはじめてからは気楽になった。 「あ、今日の練習も通しだから!」  その声がやけにクリアに聞こえて、思わず振り返った。  教室の扉近くで、横田くんが別のクラスの子と話していた。あんなに遠くにいたのに、近くにいる友達の声よりもよく聞こえる。  今日は放課後流と過ごすから、演舞の練習を見られない。流のバイトがあって一緒に帰らない日にしか、私は横田くんの演舞を見ることができないのだ。  私は誰にもばれないように、スカートのひだを握りしめた。
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