1,たぶん私、だいじょうぶ

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 放課後のカフェは同じ学校の生徒たちで込み合っていた。みんなここで勉強するのがちょっとしたお楽しみなのだ。並んで勉強していると、流がもたれかかってくる。 「どうしたの?」 「んーやる気出ない」  付き合って最初のころは、こういうやり取りも可愛いと思っていた。だけど今は、ただただうんざりするだけだった。 「やりなよ、また補講になるよ。来年は受験もあるんだし」 「ノアは真面目ちゃんだからなー」 「……普通にやってるだけだって」 「ノアは授業もさぼんないじゃん? この前だって、俺らは服買いに行ったのに付いて来なかったし」 「服なんて、いつでも買えるでしょ? ネットでもいいし」 「いやいや違うんだって! ブランドコラボの限定品が出る日だったんだよ」 「限定品かぁ……」 「なんかさぁ、ノリ悪いよな」  流の機嫌が悪い気がして、とりあえず謝っておくことにした。 「ごめんって、私はそういうのあんま興味なくって」 「もうちょっとおしゃれしてほしいなぁ、俺の彼女なんだから」  流にそう言われると、とたんに自分の立場を思い知る。  私は流に、たまたま選んでもらったから、少し価値があるだけで、実際の私にはなんにも価値はない。そんな私に、流だってうんざりしているのだ。私が流にうんざりするより、ずっと。 「うん……ごめんね」 「じゃあ次は行こうな!」 「わかった、じゃあ流も今日は勉強がんばろうよ」 「わかったー」  そう言いながらも、流は私の肩に持たれかかったままだった。 「ねぇ」  顔をのぞき込むと、急に頭を押さえられてキスされた。 「こういうこと外でしないでよ」 「じゃあ学校でする?」  にやにやする流にため息をついた。  頭の中で、扇がひらりと舞った。その影からきらりと光るものが表れて、それは自信に満ちあふれた強い目だった。 「なんで今出て来るの……」  つぶやいた言葉は、流にもう一度キスされて飲み込んだ。
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