2,宝石はそこにない

3/12
前へ
/34ページ
次へ
 今日ダンス部の練習は休みだと弘果は言っていた。おかげで私は、演舞はいつはじまるのかとそわそわしながら、無駄に教室で時間をつぶすこともなく、まっすぐ家に帰った。  昨日が今日だったらよかったのに。  昨日の練習見れなかったのが、やっぱりもったいない。洗面台で手を洗いながら、鏡の自分に「意味わかんないから」とつぶやいた。  自分の部屋に戻り、机の一番下の引き出しに突っ込んでいた、ノートを引っ張りだす。このノートを見るのは久しぶりだった。ずっと封印してきたもの。横田くんと話していたら、これのことを思い出した。  パラパラとめくる。あのとき好きだった漫画の落書き、とりとめのない日記、それから……。  小学五年生のときからずっと書き進めていた小説。私の支えであり全てだった。だけど、このせいで全て失ったと言ってもいい。 「小説書いているなんて、気持ち悪い……か」  中学生のとき、クラスメイトから言われた言葉は今も私に突き刺さっている。その棘が抜けないのは、実際そうだと思ったから。何も否定できなかった。  うまく人と喋れなかった私が、頭の中ではこんなに饒舌だなんて、気持ち悪いと自分で思った。  中学でこのノートを教室に忘れて帰ったせいで、クラスメイトたちからは絶好のからかいの的になってしまった。  ノートを忘れた私が悪いし、そもそもこんなものを書いているからいけなかったのだ。  もう辞める。高校生からは、普通に毎日を楽しむ女の子になるんだと、決めて、封印したのに。  思い出させないでよ。私はノートを壁に叩きつけた。  横田くんが舞う姿を見ると、ただただ楽しくて小説を書くことに熱中していた昔の自分を思い出してしまう。  私は、横田くんとは違う。横田くんは特別だから……あんな風に踊りという特殊なものに、一生懸命になれるだけ。  私は、そんなものに一切興味がないふりして、みんなと同じようにファッションやSNSの話題が好きなふりして、流たちといる方がきっと幸せなんだ。  これでいい。このままでいい。そうでしょ?
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加