2,宝石はそこにない

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「あ、真北って勉強苦手?」  数日後の英語の時間。にやりと笑った横田くんは、返却されたばかりの英単語の小テストを指さした。  英語は嫌いじゃないけど、単語を覚えるのはどうも苦手で、今回も15点満点で5点というありさまだった。 「見ないでよ!」  思わず点数を手で隠す。こんなとこ知られるなんて、最悪。席が隣だといいことだけじゃないんだ。いや、横田くんの隣だからって、いいって思ってるわけじゃないけど。 「今さら隠しても、もう見たし」  はぁ、とわざとらしいため息をついて横田くんは言った。目がにやついている。 「……そういう横田くんは?」 「俺? 見る?」  ちらりと見せられたテストは、満点の15点だった。 「なんかずるい! 満点だから突っかかってきたんでしょ? そもそも英単語得意なんでしょ? そうでしょ?」 「へぇ、真北ってそうやって焦ることあるんだ。意外。おっとり系かと思ってた」 「意外って」  私だって、横田くんのことやさしい系だと思ってた。そう言おうとしてやめた。 「何? 案外俺Sだった?」  ふっと笑われて、頭の中が覗かれていたみたいで顔が熱くなった。 「次はもっと頑張ってくださいねー」  赤面を違う意味でとらえてくれたらしく、横田くんは笑った。  ちょうどテスト返却が終わり、先生が教科書を読みはじめると、教室がしんと静まった。 「ねぇ」  しばらくして、私は横田くんにひそひそ声で話しかける。 「何?」  横田くんは、少し身体をこっちに傾けて、やはりひそひそ声で答えた。 「あのね、次の小テスト勝負しない?」 「は? 無謀だね」 「私だって本気出せば」 「OK」  横田くんはそう言って、身体を真っすぐに戻した。 「負けないけど」  横田くんはひとり言のようにつぶやく。 「私だって」  二人でふっと笑った。こういう何気ないやり取りが、なんだかものすごく楽しかった。  私って悪いことをしているのかな、とちらりと頭をよぎる。流の方を見ると、けだるそうに机につっぷしていた。  ただクラスメイトと勉強のことを話しているだけ、と自分に言い聞かせた。
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