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「ああ、俺、車にはねられたくせに、なんで生きてるんだろう。いっそのこ
と、あの時に俺を殺してくれたらよかったのに。どうせろくな人生じゃないん
だから。」
一郎は病室でブツブツ呟いている。
そんな中、隣からか弱い声が飛んできた。
「そんなこと…。言わないでくれよ…。世の中には、生きたくても生きられない人だっているんだよ…。」
ムッとした一郎は、彼等を仕切っていたカーテンを開ける。
弱々しい身体には似つかわしくない、活力あふれる目が彼を見つめていた。
「湊人、だっけ?君は良いよな。目一杯自分を愛してくれる人達が沢山いて。誰にも愛されず、誰にも求められない奴の気持ちなんて、君には分からないだろ。」
「…確かに分からないよ。それに、君だって自分がどれだけ苦しんだか、簡単に分かって欲しくないだろう?」
「…うん。」
「でも、それは僕だって同じだよ。僕が、小児がんって宣告されてから三年間、どれだけ苦しんだか、余命宣告を受けて、どれだけ辛かったか、それは君には分からないだろうし、簡単に分かって欲しくはないな。」
柔らかな口調だが、はっきりとした発言に圧倒され、一郎は押し黙る。
「…でもね。他人の苦しみに寄り添うことは、できるんだよ。だから、そんなにやけにならないでさ。お互いに寄り添い合おうよ。種類は全く違うけど、一人じゃ抱えきれない程、大きな苦しみを持って、生きてきた者同士なんだから。」
「…。」
「それにね。初めて会った時から、何となく分かったことがあるんだ。」
「…何?」
「君、ずっと探してるんでしょ。自分の生きる目的を…。何のために生き、誰のために生きるのか…。」
一郎は目を見開く。
目の前の少年が、一気に彼の心の中に、潜り込んだような気がした。
「…君、悟りでも開いてるの?」
「死と隣り合わせで長いこと生きていたら、悟りの一つや二つ、開きたくなるよ。」
「そう…。」
「僕も一緒に探してあげるよ。だからさ、約束しよう。僕たちは、お互い寄り添い合って生きていくって。」
湊人は細い小指を差し出す。
一郎はしばらく戸惑っていたが、やがて自分の小指を絡めた。
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