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ある時、蹴られた痛みが何日も引かず病院に行った。肋骨にひびが入っていた。もちろん男と付き合っていて、その彼氏に蹴られました、なんて言えないから、病院に行くまでに用意していた嘘の理由を伝えた。
家に帰ると杏介が待っていて、診察結果を伝えると、さすがにやり過ぎたと謝って、抱き締めてくれた。頭を撫でてくれた。
そんな風に、自分が悪い事をしたと思ったら謝ってくれたし、筋力のある男同士なんだから、少し力が入ってしまう事もあるだろう。
杏介に悪気はまったくないのだ。俺を傷付けたくてやっているワケじゃない、大切に思ってくれているのだと改めて実感した。
治るまでの期間は、俺の家の物なのに買い出しを手伝いに来てくれたり、湿布を貼ってくれたり、すごく優しくしてくれた。暴力も振るわれなかった。
事情を知った共通の友人から別れるように言われても、俺が杏介をフる事はありえなかった。
杏介は悪くないのだ。おかしいのは俺の方なのに、どうして周りは俺を被害者扱いして、心配して、別れさせようとしてくるのかが理解できなかった。
だから、杏介に好きな人ができればいいのにと願った。
俺だって杏介のことは好きだが、俺といると彼が悪者になってしまう。なら、早く俺をフッてくれれば、彼が悪者扱いされずに済むのに。そう思うようになっていた。
結局、杏介が翠さんと出会って、付き合って、俺をフるまでその関係は続いた。
雨の日は今でも、肋骨が痛む時がある。その度に、俺は心のどこかで、杏介を思い出していたのだ。
「……それもそうだな」
二年ぶりに俺の前に現れた彼はそう言って、俺の服を脱がせ始めた。
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