別れ話をしよう。

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別れ話をしよう。

「ちょ、待っ…ストップ!」 あと少しで重なるはずだった唇にそれ以外の感触。柔らかい熱。目を開くと彼女の両手で口が塞がれていた。 「ふがが?」 ブタの鳴き声みたいになった。慌てて彼女はパッと両手を開くと、 「ごめんなさい」 真っ赤に潤んだ目が鼻の先にあった。これで止まれるはずがない。なのに、もう一度キスしようとすると、やっぱりストップが入った。なんでだ? 別に誰かが見てるわけじゃない。何故ならここは車の中。夜だし暗いし運転中でもない。オマケに彼女の好きなミスターチルドレンが流れているし。なんでだ? 別にシートを倒したわけでもないし無理な体勢を望んだわけでもない。彼女はシートベルトを着用したままだ。なんでだ? 言いようのない沈黙が流れた。目を合わせようとしない彼女。いつもと少し違う。 上半身を引きはがし、変わりにシートに背中を預けた。これは仕切り直しが必要な空気と見た。 「今日は、大事な話があって」 「何?」 ゆっくり顎を上げた彼女。相変わらずその目は潤んでいる。彼女はいつも、キスした後にこういう顔をする。今日はまだ一度もしていないのに。なんでだ? 「別れ話をしましょう」 ん?今、なんて言った??
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