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「言ってよ。俺、何かダメなことした?」
「…何も」
「ほんとに?」
「してない」
「それじゃわからない」
「池本さんは何もダメじゃない」
彼女の名前を呼んだ。彼女が微かに肩を震わせる。それから強く首を振る。
「ダメなのはわたしの方……」
「え。俺、何か言った?」
「何も」
「なんだよ、それ」
ため息しか出てこない。彼女が全然わからない。ハンドルに両手をついて、その甲に額をのせる。
「じゃあ、なんで別れたいなんて言うわけ?」
だから、なんでそこで黙るかな。大事な所、なんでちゃんと話してくれないんだ。
「ごめん。全然伝わってこない。全然わかんない。なんで俺と別れたいの?」
見ると、彼女は重ねた両手をお腹にあてていた。それが彼女の言いたいことなのか、それとも無意識の行動なのか。そんなことわからないけど。推し量る余裕もないけど。だけどきっと、そうなんだろう。
「この間のこと?」
最後に彼女を抱いたのは、冬の終わりを思わせる夜のことだった。
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