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「ここは、さがしものの情報提供をしてくれると聞いたのですが」
少年は、客に向き直った。
妖しく微笑んで口を開く。
「あぁ、そうだよ。何を捜しているのかな?」
客は、真剣な表情をして、少年を見つめた。不安そうな色を覗かせて。
「…………未来、を……」
「なるほど。それは、僕じゃないとさがせないものかもね」
客の表情に、希望が差し込む。それは、天井にはめ込まれた色ガラスのようだった。
「具体的には、どんな未来をおさがしかな?」
「僕が悔いなくいきていける場所は、どこでしょうか?」
「迷っているのかい?」
「どちらも、思い入れがありまして。どちらか選べと言われると、その……」
少年は、真剣な眼差しで客を観察している。両肘をついて口元で手を組み、ただじっと。
水晶板には、まだ触れない。
客は、視線を下げ手元を見つめていた。
「どっちを選んでも、悔いは残るぞ?」
突然、少年のものではない第三者の声がして、客は驚いて顔を上げた。いたのは、ここを紹介してくれた男だった。
少年が、実に嫌そうな顔をしている。
「楓、邪魔しない」
「いってぇ!」
冷たい言葉が放たれるとともに、楓と呼ばれた男が痛みに顔を歪める。
「なんだよ、アドバイスだろぉ?」
涙目の楓が、左手の甲をさすりながら反論をした。
「ここは何でも相談室じゃないの。余計な口を挟まない」
「はーい……」
不満げな返事を聞いてから、少年は、水晶板を見つめた。
指先で水晶板に触れ、眺めたあとで、少年が妖しく口元に弧を描いた。
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