3/4
前へ
/4ページ
次へ
「選べないなら、選ばないという選択肢もある」  少年はそう言って、客に視線をやった。  客は、少年の言葉を受けて、ぽかんと口を開けていた。 「両方で暮らすのさ」 「え?……どう、やって」 「やろうと思えば、できるだろう?キミなら」 「……両方で、暮らす」  テーブルに落とした視線は、どこか遠くを見つめている。少年の言った言葉を噛み締めて、噛み締めて、しかし、明確な答えは出なかった。  ぼんやりとした一つの可能性は見出したのか、顔を上げ、少年にお礼を述べた。 「ありがとうございました。やってみます」  少しだけ晴れやかな顔をして、客は、お代をテーブルに置くと店を後にした。  リンと鈴の音がして、扉が閉まる。  静寂が、室内を満たす。 「……思い入れ、ね……」  独り言のように、少年が呟く。 「捨てられないほどの思い入れなんて、情熱的だね」 「そうか?黒樹にもあるだろ?思い入れ」  名前を呼ばれて、少年は、冷たい表情で、今まさに客でもないのに椅子に座ろうとしている楓を見た。 「ないから言ってるの」 「またぁ!そんなこと言う〜」  やれやれというふうに楓がため息をつき、頬杖をついた。 「世の中、こんなに情熱に値することであふれてるっていうのに」 「はいはい……」 「受け流すな!」    
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加