0人が本棚に入れています
本棚に追加
「選べないなら、選ばないという選択肢もある」
少年はそう言って、客に視線をやった。
客は、少年の言葉を受けて、ぽかんと口を開けていた。
「両方で暮らすのさ」
「え?……どう、やって」
「やろうと思えば、できるだろう?キミなら」
「……両方で、暮らす」
テーブルに落とした視線は、どこか遠くを見つめている。少年の言った言葉を噛み締めて、噛み締めて、しかし、明確な答えは出なかった。
ぼんやりとした一つの可能性は見出したのか、顔を上げ、少年にお礼を述べた。
「ありがとうございました。やってみます」
少しだけ晴れやかな顔をして、客は、お代をテーブルに置くと店を後にした。
リンと鈴の音がして、扉が閉まる。
静寂が、室内を満たす。
「……思い入れ、ね……」
独り言のように、少年が呟く。
「捨てられないほどの思い入れなんて、情熱的だね」
「そうか?黒樹にもあるだろ?思い入れ」
名前を呼ばれて、少年は、冷たい表情で、今まさに客でもないのに椅子に座ろうとしている楓を見た。
「ないから言ってるの」
「またぁ!そんなこと言う〜」
やれやれというふうに楓がため息をつき、頬杖をついた。
「世の中、こんなに情熱に値することであふれてるっていうのに」
「はいはい……」
「受け流すな!」
最初のコメントを投稿しよう!