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「こんな時間に通る人はおらへんと諦めとったさかい、ほんまに助かったでおおきに」
「は、はぁ」
ペンギンがお礼を言ってきたが、僕は気の抜けた返事しか出来なかった。夢でも見ているのではないかと頬を抓ってみたが、痛みはしっかりあったのでこれは現実らしい。
「はまったのが俺やったさかい良かったけど、子供が落ちたらどないするんや。君担当者に直ぐに塞げ言うといてくれへんか」
言いたい事だけ言って「ほな」と去って行く。ペンギンの歩幅なので非常にゆっくりだ。てちてちと歩いているのをぼんやりと見送っていた僕は、はっとして慌てて引き留める。こんな所にいるペンギンはもしかして、
「ケン?」
「なんや?初対面や思うとったけど、どっかで会うたことあったか?」
振り返ったペンギン、ケンはそう言って小首を傾げた。
「本当にケンなんだ……」
「だからなんや?」
質問に答えずにいたら、少しイラついた声で返して来た。足をてしてしと道に小刻みに打ち付けている。思ったより短気のようだ。
「え、えっと、佐藤さんて人が君の事探しているみたいだよ。さっきコンビニで君の事を書かれたチラシを見たんだ」
「佐藤の親父が」
驚いたように目を見開くケンに、屈んで視線を合わせながら僕は言った。
「どうして君がここに居るのか分からないけど、連絡してあげるから帰ろう?きっとすごく心配しているよ」
「……そら出来へん」
少し俯きながら首を横に振る。佐藤さんの名前を聞いた時は嬉しそうなのに、戻れないというのが不思議で僕は尋ねた。
「どうして?」
「一人前になるためにわしからあの場所をでてきてん。今はまだ帰られへん……ここで会うたのもなんかの縁や。少し話を聞いて行ってくれへんか?」
ケンの事に興味を持った僕が頷くと、道の端の方に座り込みてしてしと隣を叩くので僕もそこに腰を下ろした。
「俺は生まれた頃は自分で殻も破られへんほど貧弱やった。野生で生まれとったら生きてへんかったやろう。それを一からここまで育ててくれたのは佐藤の親父や」
「佐藤さんは飼育員さんなんだね」
「せや。俺はすぐに体調を崩したさかい付きっきりで見てくれとった。そのおかげで成鳥になった今はこないに歩き回れるんや」
「優しい人なんだね」
「そうや、優しゅうてすごいんや!」
胸を張って言うのは、親を褒められて嬉しがる子供のようだった。微笑ましい姿に和むと、僕はずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「ケンはどうして人の言葉が喋れるの?もしかしてペンギンってみんな喋れる?」
「そら最初に聞くこっちゃあらへんか?君結構抜けてるな」
ペンギンに呆れられた人間というのは僕が初めてではないだろうか。言い訳させてもらえるなら非現実すぎて脳が思考を放棄していたのだ。今ようやく落ち着いてきたので聞いたのだが、僕が何かを言う前にケンが口を開いた。
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