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憂鬱な深夜
僕は深夜の人気のない道を歩いていた。月光は分厚い真っ黒な雲に遮られ薄暗い中、疎らに灯っている街灯を頼りに進む。「はぁ」と大きくため息を吐いた。気分転換にと外に出たが、この陰気な雰囲気ではあまり効果はなかったかもしれない。
就職活動が始まり、何社もエントリーシートや履歴書を送り、たまに面接まで進んでも送られてくる結果はいつも一緒で『今回の採用は見送らせていただきます』だった。一社や二社だと相性が悪かっただけだと思えるが、十社を超えてくると自分に何か重大な欠陥があるのではないかと思ってしまう。友人達が採用通知を貰うようになると焦りは強くなっていった。
今日も新たに応募用の書類を書いていたのだが、一度こんな考えに陥ってしまうと何も書けなくなってしまった。
このまま帰る気にもなれず、明々と光る光に誘われコンビニに寄って帰ることにした。
入口に近づくと側に張り紙がしてあった。バイト募集かなと思ったが、文字が分かる距離まで近づくと全く違う事が書かれていた。『探しています』と書かれたチラシのようだ。迷い犬か猫かなと思ったが、近づき詳しい内容が分かると驚きから足が止まってしまった。
『迷いペンギン、探しています』
堂々と仁王立ちしている写真と共にそこにはこう書かれていた。興味をそそられた僕は張り紙をじっくり読む。
『コウテイペンギン オス 2才
体長 125㎝
6月15日の清掃作業後から姿が見えなくなり探しています。
特徴 頭、お腹の辺りの毛の一部は黄色
ケンと呼ぶと首を傾げます
連絡先 ○○ー○○○○ ○×水族館 担当 佐藤』
どうやら、飼育員の隙をついて脱走したようだ。そういえば数日前にニュースでペンギンが脱走したとか言っていたな、まだ見つかっていないのか。ペンギンの足でこんな隣街まで来れるとは思わないが、もしかして誘拐でもされたのかな。
詳しい状況が良く分からないから何とも言えないが、担当の佐藤さんはこんな場所のコンビニまで張り紙を頼むぐらい心配しているのだろう。早く見つかるといいなと思いながら僕はコンビニの入り口を潜った。
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