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さくらんぼ診療所
「忍~凱の帰国って明日だよな?」
登は箱から食器を出して食器棚に並べている。
「そうだったはず・・なんかまた色々買ってくるんじゃない?」
俺達が凱を含め三人で桜の父親になろうと決めて半年。
病院は業者に依頼して開業は明後日からだ・・それでも俺を知っている患者は電話してきたりしている。
凱はアメリカと日本を何度も仕事で往復しているがその度に桜にお土産を欠かさない。
「この間の大きな熊のぬいぐるみは病院に置くことにしたよ。」
桜も中学生だから大きすぎるぬいぐるみに困った顔をしていたから俺が横から病院に置かせてくれとお願いした。
桜のホッとした顔が何を思っていたかよくわかる。
「凱ってさ今回何を買ってくるんだろうな~。」
季節は秋で寒くなるからって服か?
「桜がノートパソコン欲しいって言ってたから用意したんだけどどう?」
登はピンク色のノートパソコンを買ってきていた。こいつもある意味趣味が悪いか?
「もうすぐ桜帰って来るな・・。」
中学三年は部活も無いから帰宅は早いはずだ。
荷物は片付いたと思うし今日はマスターが御馳走してくれるって言うから「俺の」に行く予定にしている。
「ただいまー。」
元気な声が玄関から聞こえた。
「おかえりー。」
桜は新しい自分の家が出来るのを喜んでいたようだったし部屋も自分で色々考えてコーディネートしているようだった。
俺達が提案した家具やカーテンは「嫌だ」って一蹴された。ピンクや水色やって考えていた俺達。
シックな落ち着いた家具がいいとかなり大人っぽい部屋に仕上げた桜だった。
昔はピンクや水色やレースが好きだった女の子が今は違うんだよな~。
「先に着替えて手伝う。」
制服を部屋で脱いで着替えてくると部屋に戻った桜はシーンズとトレーナーに着替えてきた。
「桜パソコンこれ!スペックはいいと思うんだ。」
俺は桜の反応を楽しみに見ていた・・どういうかな。
登は小物のピンクは大丈夫だと言っていたが?
「可愛い!ササちゃんありがとう。」
予想とは違い登の見解に軍配が上がった。
「いえいえ、限定色みたいだよ。」
「ピンクは卒業じゃないの?」
俺が聞くと桜は
「部屋がピンクは嫌だけど小物はいいの。」
ガッツポーズする登がうざい。
俺も桜に買ってきた物があるんだ・・。
「桜これ見て。」
リビングの壁の位置に少し大きめの水槽を買ってきていた。
そこに泳ぐのは桜が大事に育てている金魚。
「トラとルイ広い所に引っ越しだね。シーちゃんが用意してくれたの?」
トラとルイは2年前の花火祭りの時に咲と桜で買ってきた屋台の金魚。
「病院の待合にさ水槽置いたでしょ?その業者に依頼したんだよ。」
子供が待っている時に興味を持てるように海水魚を飼う事にした。
その業者にリビングの水槽も依頼しておいたんだ。
「ありがとう。よかったねトラ~ルイ~。」
なんで名前がトラでルイなのかはわからないが・・少し大きくなってきていたから水槽を大きくしたのは正解だと思う。
「凱さんは明日だよね帰ってくるの。」
「だと思うけど桜にライン来てないのメールとか。」
「来てないよ~日本にいる時は必ず電話かメールが朝と晩にくるけどアメリカの時差を気にしてたまにメール来るくらいかな。」
俺はまた凱が変な物を買ってくる気がしてならない。
俺のスマホの着信音が鳴ったから出ると患者さんだった。
「はいさくらんぼ診療所です。明後日からですがどうしましたか?」
三歳の男の子が高熱が下がらず痙攣をおこしたという連絡だった。
「ちょっと行ってくるわ。」
白衣を持って俺は患者の元へ向かった。
シングルマザーのお母さんで保育園からの呼び出しで帰宅したところに急変しての痙攣。
「先生・・大丈夫ですか?」
「熱が高いから下げますね。後は痙攣後の睡眠状態みたいなので無理に起こさないで。痙攣時間は3分くらいだから熱性けいれんです。痙攣の薬があるのですが、肝臓に負担がかかることがあります。」
インフルエンザの可能性もあることから救急で検査できる病院へ運ぶと先方の知り合いの医者に俺が電話して説明する。
数分後に救急車がきて子供が幼いから付き添いで母親も一緒に同乗して運ばれていった。
母親一人で初めての子育てだとパニックにもなる。
「早く開院しないとな・・。」
地域医療の崩壊は避けたい小さい子供を育ててる親の身近な医者になることが今の俺の目標となっていた。
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