一番近くて遠い恋

12/13

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
涼がようやく足を止めたのは、人混みから離れた大きな河の河川敷だった。 花火の音は変わらず聞こえるが、ここからだと光はちらりとしか見えないため、人はまばらだった。 私の方を見ることもなく、ただ手を繋いだまま俯いて立ち止まる。 しばらくした後、ぱっと顔を上げて涼は笑った。 「ごめん!見てられなくてついマル連れて離れちゃった!」 誰が見ても作り笑顔とわかるくらいの満面の笑みで彼は続ける。 「告白する予定だったんだけどな。あれ見たらもう言うことなんてなくなるよなあ」 な?と言って私を覗き込むように笑いかける。 その唇は小刻みに震えており、たまらなくなって私はぎゅっと彼の手を握り返した。 「私の前で今更無理してどうすんの」 それを聞いた瞬間に、彼の顔がくしゃっと崩れる。 ばっと顔を逸らし片手で顔を覆う。指の間から、こぼれ落ちる雫が見えた。 見ないで、マルでも恥ずかしいからさ。 震える声でそう言う。 刹那、唐突に自覚した。 私は涼が好きだ。 本当は気づいていた。頼られるのが嬉しい、相談されるのが嬉しい。でもそれだけじゃない感情が芽生えていたことに。 でも気づかないふりをしていた。だって認めたところで決して叶わない。認めて辛い思いをするくらいなら、「気のせい」で終わらせた方が良い。言ったところで届かない。彼はユリが好きで、大好きで、どうしようもなくて、その相談に私が乗っているのだから。 頼られるのは嬉しいけれど、頼られる度に密かに傷ついていた。これ以上傷つきたくない。でも話したい、近づきたい、秘密を知っているのは私だけが良い。矛盾した2つの感情に板挟みになるのが嫌で、ずっとずっと心に蓋をしてきた。 でももう無理だ。 頭を撫でた瞬間に、肩にもたれかかられた瞬間に、腕を掴まれた瞬間に、手を繋がれた瞬間に、溢れてしまう。 私は、涼が好きだ。 恋はもっと楽しくて美しいものだと思っていた。 恋がこんなにもつらいものだなんて知らなかった。 「マルを好きになることはないから」「私も涼を好きになることはない」 言葉は呪いだ。決して解けない。 彼の言葉に私の言葉は締め付けられて、伝えることすら叶わない。 好きだと言う言葉も、涙すらも見せてはいけない。悟らせてはいけない。 きっと私は誰よりも彼の近くにいて、誰よりも遠いところにいるのだろう。 わかってるから、大丈夫。 ぎゅっと目を閉じ、唇を噛んで俯いた。 この気持ちは絶対に伝えないから、でも今だけ。 あふれそうな涙も、こぼれそうな言葉も塞いで、私はただ強く強く彼の手を握る。 ごめんなさい。でも、今だけは、一番近いこの距離に居ることを許してください。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加