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涼がようやく足を止めたのは、人混みから離れた大きな河の河川敷だった。
花火の音は変わらず聞こえるが、ここからだと光はちらりとしか見えないため、人はまばらだった。
私の方を見ることもなく、ただ手を繋いだまま俯いて立ち止まる。
しばらくした後、ぱっと顔を上げて涼は笑った。
「ごめん!見てられなくてついマル連れて離れちゃった!」
誰が見ても作り笑顔とわかるくらいの満面の笑みで彼は続ける。
「告白する予定だったんだけどな。あれ見たらもう言うことなんてなくなるよなあ」
な?と言って私を覗き込むように笑いかける。
その唇は小刻みに震えており、たまらなくなって私はぎゅっと彼の手を握り返した。
「私の前で今更無理してどうすんの」
それを聞いた瞬間に、彼の顔がくしゃっと崩れる。
ばっと顔を逸らし片手で顔を覆う。指の間から、こぼれ落ちる雫が見えた。
見ないで、マルでも恥ずかしいからさ。
震える声でそう言う。
刹那、唐突に自覚した。
私は涼が好きだ。
本当は気づいていた。頼られるのが嬉しい、相談されるのが嬉しい。でもそれだけじゃない感情が芽生えていたことに。
でも気づかないふりをしていた。だって認めたところで決して叶わない。認めて辛い思いをするくらいなら、「気のせい」で終わらせた方が良い。言ったところで届かない。彼はユリが好きで、大好きで、どうしようもなくて、その相談に私が乗っているのだから。
頼られるのは嬉しいけれど、頼られる度に密かに傷ついていた。これ以上傷つきたくない。でも話したい、近づきたい、秘密を知っているのは私だけが良い。矛盾した2つの感情に板挟みになるのが嫌で、ずっとずっと心に蓋をしてきた。
でももう無理だ。
頭を撫でた瞬間に、肩にもたれかかられた瞬間に、腕を掴まれた瞬間に、手を繋がれた瞬間に、溢れてしまう。
私は、涼が好きだ。
恋はもっと楽しくて美しいものだと思っていた。
恋がこんなにもつらいものだなんて知らなかった。
「マルを好きになることはないから」「私も涼を好きになることはない」
言葉は呪いだ。決して解けない。
彼の言葉に私の言葉は締め付けられて、伝えることすら叶わない。
好きだと言う言葉も、涙すらも見せてはいけない。悟らせてはいけない。
きっと私は誰よりも彼の近くにいて、誰よりも遠いところにいるのだろう。
わかってるから、大丈夫。
ぎゅっと目を閉じ、唇を噛んで俯いた。
この気持ちは絶対に伝えないから、でも今だけ。
あふれそうな涙も、こぼれそうな言葉も塞いで、私はただ強く強く彼の手を握る。
ごめんなさい。でも、今だけは、一番近いこの距離に居ることを許してください。
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