1.笑う聖職者

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1.笑う聖職者

「で? 腹は満たされたか?」 「いやあ、被害が小さかったからな。まだちっと食い足りねえや」  教会に戻ったサランサガは上司に報告しつつ椅子の上で自分の腹をさすった。上司、つまりこの教会の神父は彼女と同じ褐色の肌で、その眉間に深いシワを寄せると深くため息をつく。 「ジレンマだな。人間達への被害が大きければ大きいほど、救済した時の見返りも大きくなる。しかし、そこには我々の嫌いな感情も満ちているだろう」 「そうなんだよなァ。味にこだわるなら、やっぱ早期解決が一番だ」 「まあ、質より量を選ぶ連中もいるが、我々は質を重視する。だからこそここに集ったんだろう?」 「まァな」  彼等も一枚岩というわけではない。複数の派閥があって、それぞれが"教区"という形で住み分けを行っている。自然、嗜好の近い者同士が結集して狩りを行うのが常識になっていた。  彼等──笑う聖職者。  特に厳しい戒律で縛られた僧侶達の中にあって、別格の自由を許された者達。今のところ"供物病"患者を治療できる存在は彼等しかおらず、それゆえ警察とも協力体制にある。  彼等の特徴は三つ。  供物病を治療できること。  患者に負けない身体能力を有すること。  そして、よく笑うこと。 「アタシらは美食家(グルメ)だもんなァ」 「そういうことだ。だから足りない分は別の"奉仕活動"で賄うしかない」 「ゲェ~、またアタシにガキどもの面倒を見させる気かよ?」 「お前が一番慕われているのだからしかたあるまい。彼等の"味"はお前も嫌いじゃなかろう?」 「ん、まァ、そうなんだけど。アイツらの体力って底無しだかんなァ」 「お前がいなかった間、テテリネが面倒を見ていた。ほどよく体力を削られている頃さ」  テテリネというのは人間のシスターだ。二十代後半でサランサガより少し年上。生真面目な性格なので子供達は酷く退屈していることだろう。またぞろ勉強させられているに違いない。 「しゃあねえな、ならちっと、いってくらあ」  ──と、彼女がようやく子守りに乗り気になった、その時だ。突然執務室のドアが開き、慌てた様子の幼いシスターが駆け込んで来る。 「し、神父様! あ、それにシスター・サランサガも、ちょうど良かった! 警察の方がいらして、また現れたそうです、供物病の患者が!」 「……サランサガ」 「ヘッヘッヘッ、ガキンチョ共には悪ィけど、そういうことならハシゴして来らァな」  ニヤリと笑うサランサガ。その手の中には再びあの白銀の鎖が出現していた。
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